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【第1部|海事制度・国際条約】1.2 SOLAS条約とは
SOLAS条約は、船舶の構造・設備・運航について、安全のための最低基準を定める国際条約である。本記事では、条約の目的、適用範囲、主な規定と、検査・証書との関係を解説する。
1.2.1 SOLAS条約の目的と成立
正式名称は「1974年の海上における人命の安全のための国際条約」(International Convention for the Safety of Life at Sea, 1974)で、海上人命安全条約とも呼ばれる。SOLASは、Safety of Life at Seaに由来する略称である。
最初の条約は、大規模な旅客船の沈没事故を契機として、1914年に採択された。救命艇の備えと救命訓練、無線電信の設置と遭難周波数の聴守、北大西洋での流氷監視などを定め、船舶の安全を国際的に確保しようとするものであった。ただし、この条約は第一次世界大戦の影響で発効に至らなかった。
その後、1929年、1948年、1960年に新たな条約が採択された。現在の基礎となる1974年条約は、1974年11月1日に採択され、1980年5月25日に発効した。
1974年条約には、その後も改正が加えられている。現在の条約は、「改正後の1974年条約(SOLAS, 1974, as amended)」とも呼ばれる。
1.2.2 適用範囲は章や規定によって異なる
SOLAS条約は、国際航海に従事する一定の種類の船舶を対象とする。ただし、すべての章が同じ範囲に適用されるわけではない。
例えば、第IV章の無線通信では、国際航海に従事する旅客船と総トン数300以上の貨物船に、遭難・安全通信のための設備を求めている。一方、第V章の航行の安全は、原則としてすべての航海に従事する船舶を対象とし、国際航海に限られない。
また、第V章の中でも、個々の設備には船種や大きさなどに応じた適用条件がある。船舶自動識別装置(AIS)の搭載要件では、国際航海に従事する総トン数300以上の船舶のほか、国際航海に従事しない総トン数500以上の貨物船や、大きさを問わず旅客船も対象に挙げられている。
このため、「国際航海をしない」「一定の総トン数に満たない」という理由だけで、SOLAS条約のすべての規定が対象外になるとは判断できない。
1.2.3 SOLAS条約が定める主な内容
条約は、一般的な義務や改正手続きなどを定める本文と、技術的な要件などを定める附属書から成る。主な規定の例を次に示す。
表1.2-1 SOLAS条約の主な規定の例
| 章 | 主な内容 |
| 第I章 | 検査、証書の発給、寄港国による監督 |
| 第II-1章 | 水密区画、復原性、機関・電気設備 |
| 第II-2章 | 防火、火災の探知、消火 |
| 第III章 | 救命設備、乗組員の配置・訓練 |
| 第IV章 | 無線通信設備 |
| 第V章 | 航行の安全、航海設備、遭難者の救助 |
| 第VI章・第VII章 | 貨物の積付け・固定、危険物の運送 |
| 第IX章 | 船舶の安全運航の管理 |
| 第XI-2章 | 船舶・港湾施設の保安 |
| 第XV章 | 産業人員を運送する船舶の安全措置 |
第XV章は2024年7月1日に発効した。洋上風力発電施設などで作業する産業人員を船で運ぶ際の安全を扱い、船舶と施設との間の移乗など、洋上作業に特有の危険に対応するものである。
1.2.4 関連するコードの役割
SOLAS条約には、関連するコードへの適合を義務づける規定もある。例えば、第III章の救命設備については、LSAコード(国際救命設備コード)が具体的な技術要件を定めている。
表1.2-2 SOLAS条約に関係するコードの例
| コード | 関係する章 | 主な対象 |
| LSAコード | 第III章 | 救命設備の技術要件 |
| ISMコード | 第IX章 | 安全運航と汚染防止のための管理 |
| ISPSコード | 第XI-2章 | 船舶と港湾施設の保安 |
| IPコード | 第XV章 | 産業人員を運送する船舶の安全 |
ISMコードは、船舶の安全な管理・運航と汚染防止のための国際基準である。船舶、人員、環境に関する危険を評価し、適切な対策を設けることを求めている。陸上と船上の管理者の双方に、それぞれの役割に応じた知識と意識が求められる。
ISPSコードは、船舶や港湾施設への保安上の脅威に備えるための枠組みである。船舶、会社、港湾施設の保安担当者を定め、保安評価や保安計画の作成・実施などを行う。コードは、義務的な要件を定めるPart Aと、その実施について推奨される指針を示すPart Bで構成される。
1.2.5 検査と証書による確認
条約に適合していることは、検査や証書によって確認される。検査は、旗国の主管庁の検査員や、その権限を与えられた認定機関などが行う。
確認するのは建造時の状態だけではない。船舶が適用される条約やコードに従って設計・建造され、維持・管理されていることも対象となる。
船種などに応じて、旅客船安全証書、貨物船安全構造証書、貨物船安全設備証書、貨物船安全無線証書などが発給される。船内に備える証書や書類は、寄港国によるPSCでも確認の対象となる。
1.2.6 改正と国内制度との関係
附属書の第I章以外の章の改正には、黙示的受諾という手続きが用いられる。一定の期間内に所定の条件を満たす反対がなければ、定められた日に改正が発効する仕組みである。ただし、条約本文や附属書第I章の改正には異なる手続きがある。
日本では、条約に対応する国内制度も整備されている。例えば、船舶・港湾施設の保安については、2002年のSOLAS条約附属書の改正に対応して「国際航海船舶及び国際港湾施設の保安の確保等に関する法律」が制定された。
また、2024年1月1日に発効した係留設備に関する改正では、索を含む係船設備の点検・保守について、建造日にかかわらずSOLAS条約適用船が要件を満たす必要がある。日本でも、これに伴う船員労働安全衛生規則の運用が示されている。
SOLAS条約を確認する際は、章の名称だけでなく、対象船舶、対象設備、改正の発効日と適用条件を併せて読む必要がある。
この記事について
参考資料
- International Maritime Organization「International Convention for the Safety of Life at Sea (SOLAS), 1974」
- International Maritime Organization「AIS transponders」
- International Maritime Organization「The International Safety Management (ISM) Code」
- International Maritime Organization「SOLAS XI-2 and the ISPS Code」
- International Maritime Organization「Surveys, Verifications and Certification」
- International Maritime Organization「New code of safety for ships carrying industrial personnel adopted」
- 国土交通省「1974年の海上における人命の安全のための国際条約(SOLAS条約)」
- 国土交通省「国際航海船舶及び国際港湾施設の保安の確保等に関する法律とは?」
- 国土交通省「SOLAS条約改正に伴う船員労働安全衛生規則(係船設備の安全対策)の運用について」
(最終閲覧日:2026年10月16日)
※本記事は、上記文献を参考にしつつ、筆者の理解および実務上の知見に基づき整理したものである。
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